- 細菌―味方か敵か
- 腸内フローラとは何ですか?
- 腸内フローラのバランスを損ねるものは何か?
- 腸内フローラのバランスが持つ重要性―2つの防御機構
- 腸内環境の健康に対する影響
- プロバイオティクス と は何ですか?
- プロバイオティクスの長所
- プレバイオティクス と は何ですか?
- プロバイオティクス と プレバイオティクス、どっちが良いの?
- 参考資料
細菌―味方か敵か
1929年に初めて発見された抗生物質は、1946年には臨床応用されて公衆衛生に多大な影響を及ぼしました。その発見によって、感染症はもはや人の生命を脅かす脅威ではない、という誤った考え方が広がりました。それどころか、この種の医薬品の濫用によって抗生物質への耐性が促された結果、抗生物質ではもはや治療できない「スーバーバグ」と呼ばれる強力な細菌が誕生しました。
善玉菌と悪玉菌はどちらも必要
We need both Good and Bad bacteria
実際には、細菌は非常に高度なものであり、人の健康に役立てることができます。人の体は、以下のために善玉菌を必要としています。
- 食物を消化する(消化管内で)
- 栄養を吸収する
- 毒素を分解する
- アレルギーを防ぐ
- 病気に対する免疫を持たせる
人の体は悪玉菌も必要としています。人の免疫システムは、何らかの悪者(すなわち病原体)が体内に留まっている限り、そこから絶えず情報を収集します。人の体が攻撃にさらされると、その免疫系に防御を開始する方法を教えてくれるのがこの情報です。この種の悪玉菌が体内に存在していないと、その人の免疫系は何をしたらよいかわからなくなってしまいます。
土が樹木を支えるのと同様に、腸内フローラ(腸内常在細菌叢)は人の組織や器官を支えています。そして、養分が土を通して浸透し、樹木に利用される別の物質に変わるのと同様に、人の体内の栄養分も腸内フローラを通して浸透し、別の物質に変わります。人はこのようにして栄養を利用することができます。したがって、細菌をことごとく叩きだして破壊するのではなく、胃腸管内にいるこれらの細菌と調和して共存する方法を学んだほうが賢明といえます。
理想的なバランスの取れた腸内フローラは善玉菌が80%
A balanced intestinal flora is ideally 80% good bacteria
悪玉菌は酸素を好みますが、善玉菌は酸素がない環境で生きます。悪玉菌は酸素を使い尽くすことで、善玉菌の生存に適した環境を提供します。つまり、人は誰でも、善玉菌と悪玉菌のバランスの取れた生態環境を腸内に維持する必要がありますが、両者の理想的な比率は80%対20%です。残念なことに、現代人のライフスタイルと環境要因においては、この割合が逆転しています。
出生直後の乳幼児には、消化管内に少なくとも90%の善玉菌(特にビフィズス菌、つまりビフィドバクテリア)を持っています。この割合は、乳幼児の離乳後に25%、その後成人に達するころには10%にまで低下し、65歳以降は5%未満に落ち込みます。栄養不良、病気、薬の服用、化学療法、抗生物質、遺伝的性質、環境汚染物質、ストレスなどの要因によって、消化管が本来持っている生態環境は破壊され、細菌のバランスを損ないます(これを「腸内フローラのアンバランス(不均衡)」ともいいます)。
メイドがお掃除してくれないと
When the maid can’t clean up!
腸内フローラのアンバランスは、便秘、消化不良、栄養吸収不良、免疫耐性の低下、毒素など様々な問題を引き起こすおそれがあります。人の体は、ある程度まで毒性に対処できるようにできています。実は、これこそが人の肝臓の最も重要な役割です。つまり、毒素を別の物質に変えて、腸、膀胱または皮膚を経て排出します。しかし、善玉菌が悪玉菌との戦いに敗れると、毒素レベルが上昇します。さらに、化学的毒素や環境毒素が毎日休みなく体内に侵入し続けると、その結果として排出システムが詰まってしまいます。
いま、血流中に毒素が入って体内を自由自在に駆け回っているとします。すると免疫系は自分の仕事をしようとしますが、多種多様な病原体や毒素が体内の至るところに存在するために、混乱し圧倒されてしまいます。そのため過剰反応が起こり、体自身の細胞、組織、器官を含むありとあらゆる部位に反撃を始めます。これが自己免疫と呼ばれるものです。自己免疫に関する問題には、アレルギー症、橋本甲状腺炎(慢性甲状腺炎)またはグレーブス病(バセドウ病)、1型糖尿病(膵臓の自己免疫に関連)などがあります。
腸内フローラに異常が発生すると、腸に様々な障害が生じることがあります。中でも最もよく知られているのは、炎症性腸疾患(IBD)、過敏性腸症候群(IBS)、胃食道逆流症(GERD)、クローン病、潰瘍性大腸炎、セリアック病、小腸内細菌過剰繁殖(SIBO)などです。炎症性腸疾患(IBD)は先進国で広まっている病気です。これは、腸の内膜(粘膜)または内壁の炎症によって、潰瘍(痛みを伴う開放創)や下痢を引き起こします。一方、自閉症と統合失調症の二つの精神疾患も、腸内フローラの問題と強い関連があります。腸内で起こる炎症は、ひいては関節や動脈などの体の他の部分に炎症を引き起こすこともよくあります。
腸内フローラの健全なバランスを維持することは、様々な病気の予防と治癒ならびに全般的な健康にとってたいへん重要です。それでは、体内でバランスの取れた細菌生態系を維持するにはどうすればいいでしょうか。
- 果物、野菜、非加工食品をもっと多く摂取してより強力な腸内フローラを作り出す。
- プロバイオティクスまたはプレバイオティクスなどの健康補助食品を摂取して善玉菌の成長を促す。
プレバイオティクスとは、善玉菌が増殖するために「食べる」「食品」をいいます。プレバイオティクスの典型的な例のひとつがオリゴ糖です。